# 映画の内容に関するネタバレが多分にあります。
5/7 から公開になった映画『岳』を観てきました。
映画『岳-ガク-』オフィシャルサイト
『岳』は北アルプスに住んでいる遭難救助ボランティアの島崎三歩が、日々救助活動に奮闘する様子を描いた漫画で、現在は 14巻まで刊行されています。
原作者の石塚真一さんが漫画を描き始めたのは 28歳。最初に入社した会社が 1年で潰れ、心機一転、ハウツー本をたよりに漫画家を目指して描き始めたそうです。
アメリカで 5年間、山や岩場を登って回った経験をベースに描かれており、これまでの山岳救助を扱った漫画とは違い、遭難という暗い場面であっても、主人公の三歩の明るさや、「よく頑張った」「また山においでよ」といった前向きなセリフに、場面とのギャップが強く印象に残り、人気を博しています。
単行本では三歩(小栗旬) の活躍がメインですが、映画では、紅一点のヒロイン・椎名久美(長澤まさみ) が長野県の山岳警備隊に配属され、訓練と経験を積みながら、一人前のプロの救助隊員に成長していく様子を、単行本からの数話を混ぜて、描いていました。
山の中で飛んだり、跳ねたり、走ったりという状況は普段はほとんどありませんが、そういった三歩の躍動感も、漫画特有のオーバーアクションやコミカルなシーンも、冷静さを失わない救助隊の隊長(佐々木蔵之介)、タバコの煙が渋いヘリの牧さん(渡部篤郎)、何でもわかってる谷村山荘のおばちゃん(市毛良枝) らの共演者の盛り上げもあり、彼らの雰囲気も含めて上手く表現されていました。
この手の映画のクライミングシーンは突っ込みどころ満載なので、措いておくとして、最初と最後の空撮による、立山周辺や穂高の稜線のシーン、夕日の映像の雄大さ、迫力は、日本の山とは思えないほど素晴らしかったです。『剱岳 点の記』とはまた違った表現でした。
ただ、原作は遭難救助の話なので、映画でも遭難にまつわる悲惨なシーンが多く描かれています。滑落して手足があらぬ方向に曲がっている遺体、岩壁から遺体を投げ落とす、ピッケルで生きてる人間の足を切断などなど。
本来であれば山の魅力、素晴らしさを最大限に伝えてもらいたいところですが、この映画のように、山の厳しさや危険性、救助隊の人たちの頑張りなど、普段は余り表に出てこない影の面にスポットを当てる映画も、近年の安易な遭難が増えている傾向に警鐘を与えるという意味では必要なのかもしれません。
最後にちらっと平山ユージさんと作者の石塚真一さんが登場していました。ただ、新聞に掲載されていた、石塚さんへのインタビュー記事では「本職の俳優さんに悪いので二度と出ません」と語っています。
VIDEO 映画『岳-ガク-』 予告
蛇足のおまけ 1
映画で使われている話を原作からピックアップしてみました。
1巻 3歩 - 滑落してシュルンドに落ちる話
1巻 4歩 - 遺族の親に殴られる話
2巻 3歩 - 落ちていく友人に手を伸ばして触れられなかった話
2巻 6歩 - 雪崩に吹き飛ばされる話
3巻 2歩 - 久美ちゃんが遭難者をしかり、本人が遭難する話
3巻 3歩 - ナオタの親が遭難する話
4巻 2歩 - 岩壁でのトレーニング
4巻 5歩 - ピッケルで足を切断する話
4巻 6-8歩 - 久美ちゃんがヘリから降り、制限時間内に登らせる話
5巻 6歩 - 遺体を落とす話
5巻 7歩 - 2日間遺体を担ぐ。スパゲッティの話
6巻 1歩 - 授業参観の話
6巻 2歩 - 父親に山頂をプレゼントする話
久美ちゃんの父親に関する話は映画オリジナルのようです。死を意識してから、コメントをテープに残していたのは、さながら現代版『風雪のビバーク』といったところです。
蛇足のおまけ 2
ギアマニアな皆さんこんにちわ。映画の中の三歩と同じ格好をしたい人向けの情報。
バイル -
CLIM BUBU Flamingo
既に数年前のモデルなので入手は不可。リーシュもシャルレ(ペツルが後に吸収) の古い物が使われていましたが、本来はリーシュレスのアックスなので、しかも右手だけで、位置もおかしいので不思議な感じがしましたが、ピッケルとしても使っていたので、ピッケルバンド的な使い方かな? 原作ではペツルのクオークや BD のコブラが描かれています。ピックのカバーは
BD のプロテクター 。
ザック -
Mammut Trion Pro black-fire
脇についてるスノーバーは
エキスパート オブ ジャパン の製品かな? プローブ(ゾンデ棒) もちらっと見えたけど不明。ピッケルも良くわからず。Simond?
ハーネス -
CAMP Air
ぶら下がっているクライミングギアは、ルベルソは一番初期のモデル、エイト環も使い込まれていたり、全体的に古め。デイジーチェーンは昔の BD のナイロンモデルかな?
ロープマン は太いロープ用。スリングは石井スポーツオリジナルと BD が中心、カラビナ類は良くわかりません。
靴 -
AKU Spider Kevlar GTX
アイゼンは Simond というバンドが見えますが、いつのモデルかはよくわかりません。
アパレルは詳しくないのですが、ジャケットは Mountain Hard Wear、パンツは The North Face 、グローブはマムートのようですが、製品名まではわかりません。
途中の岩場で履いていたクライミングシューズは三歩がスポルティバのミトス、久美ちゃんが 5.10 のスパイアーと紫で揃えた渋いチョイス。
蛇足のおまけ 3
クライマーさん向けの話のネタになりそうなファイト一発シーンを 3つほど。
1. パラレルに同時登攀。最初に担いだ友人とのクライミングシーン。岩壁で "一緒" に登っているはずが、なぜかバラバラでパラレルにロープソロをしているというおかしな事に。原作だとハーフドームのラインをそれぞれソロで登っている設定なのでこんな描画になったのかな。
2. 久美ちゃんがソロをしているシーン。たぶんペツルのトラクションを使っていると思いますが、上からのロープにぶら下がりつつ、確保支点用のハーケンを打っており、状況が良くわからじ。しかも両耳にイヤホンをしており・・・。
3. 最後に三歩が斜面をかけ降りてきて、シュルンドにダイブしてダブルダイノでアックスを刺して止まるという、まんまバーティカル・リミットなシーン。肩はずれるって。
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